草間彌生の代表作といえば、水玉、網目、そして「かぼちゃ」。
なかでも「かぼちゃ」は、彼女の長い画業の到達点ともいえる存在です。
瀬戸内海の直島に佇む黄色い彫刻、キャンバスいっぱいに描かれた南瓜、版画作品として世界中に流通するドットのかぼちゃ——。
なぜ草間彌生のかぼちゃは、ここまで愛され続けるのでしょうか。
本記事では、代表作や市場評価にも触れながら、他モチーフとの対比を通して、その本質を紐解きます。
草間彌生の代表作「かぼちゃ」
草間彌生がかぼちゃを初めて描いたのは、幼少期の記憶に遡ります。
種苗業を営む家に生まれ、日常的に目にしていたかぼちゃの姿。その無骨で不格好で、しかしどこか愛嬌のあるフォルムが、彼女の心に深く刻まれました。
「かぼちゃ」作品の特徴
最大の特徴は、規則的に反復される水玉模様です。
黄色地に黒ドット、赤地に黒ドットなど、コントラストの強い配色が多く、遠くからでも一目で「草間作品」と認識できます。
水玉は彼女の代名詞であり、「自己消滅」や「無限」を象徴する重要な要素。
その反復性が、かぼちゃの丸みと結びつくことで独特のリズムを生み出します。

直島のかぼちゃ
特に有名なのが、香川県の直島に設置された《南瓜》。草間彌生が初めて手がけた野外彫刻作品です。
海と空を背景に、黄色地に黒いドットをまとった巨大なかぼちゃが置かれた光景は、現代アートの象徴的風景として世界中に拡散しました。
同じく直島にある《赤かぼちゃ》も含め、これらの屋外彫刻作品は「草間=かぼちゃ」というイメージを決定づけた存在です。
「かぼちゃ」と他モチーフとの対比
草間彌生の芸術世界を理解するうえで、「かぼちゃ」だけを切り取って語ることはできません。
なぜなら彼女のモチーフは、それぞれが異なる役割を担いながら、長い年月をかけて形成されてきたからです。
では、その中で「かぼちゃ」はどのような位置にあるのでしょうか。
他の代表的モチーフと比較することで初めて見えてくる、草間彌生芸術の到達点としての「かぼちゃ」の本質を、順を追って紐解いていきます。
「網目(インフィニティ・ネット)」との対比
1960年代、ニューヨーク進出時代に発表された「ネット・ペインティング(網目)」。
網目も草間の代表的モチーフですが、視界を覆う幻覚を、無限に広がる網目として描き続ける行為は、恐怖と向き合うための闘いでした。
自己を消滅させるための反復——それがインフィニティ・ネット(無限の網)の本質です。
対して、かぼちゃはどうでしょうか。
網目が「どこまでも広がる無限の恐怖」なら、かぼちゃは「そこに確かに存在する有限の安心」です。
終わりのない網目に対し、かぼちゃには明確な輪郭があります。丸みを帯びた形は、観る者に物理的な安定感を与えます。
「花」との対比

草間作品に頻出する極彩色で巨大な花のモチーフ。
それは幼少期に体験した、食卓の花が自分に話しかけてきたり、花の模様が部屋中に広がって自分を飲み込もうとしたりした強烈な幻覚体験に基づきます。
花は彼女にとって、美しさの象徴ではなく、「自分を捕らえて離さない不気味な生命力の象徴」でした。
しかし、かぼちゃは違います。
花が「攻撃的に迫りくる幻覚」なら、かぼちゃは「自分を守ってくれる神仏に近い存在」です。
「ソフト・スカルプチャー」との対比
1960年代、彼女は男根を模した布製の突起物を家具などに植え付ける「ソフト・スカルプチャー」を多数制作。これは、性への恐怖と嫌悪の克服を目的としたシリーズでした。
彼女は幼少期の経験から「性」に対して強い恐怖と嫌悪を抱いていました。突起物を何千と増殖させる行為は、嫌悪対象を無効化する儀式でもありました。
それに対し、かぼちゃは「嫌悪を克服する装置」ではありません。それは、最初から愛しい存在です。
嫌なものを見つめ続ける苦行ではなく、愛しいものを愛で続ける祈り。
この転換が、草間芸術の成熟を示しています。
自画像としての「かぼちゃ」
他のモチーフが「恐怖」や「強迫観念」から生まれているのに対し、なぜかぼちゃだけがこれほどまでにポジティブな輝きを放っているのでしょうか。
それは草間彌生が、かぼちゃに自らの姿を重ねているからです。
「野暮ったくて、不細工で、愛嬌がある」
華やかなニューヨークのアート界で、アジア人女性として、精神疾患と闘いながら生き抜いた彼女。その自己肯定の象徴が、かぼちゃなのです。
外から襲いかかる幻覚や恐怖ではなく、内側から生まれる肯定。
それが、かぼちゃの本質です。
出典:文部科学省ホームページ
草間彌生「かぼちゃ」の市場評価と人気の理由
草間彌生の「かぼちゃ」は、単に象徴的なモチーフというだけでなく、美術市場でも人気の高い作品ジャンルとして位置づけられています。
実際の市場取引を見ると、制作年・技法・サイズ・版数によって価格帯は大きく変動しますが、一定の強い需要があることは明らかです。
- キャンバス作品
- 版画(シルクスクリーン)
- 立体オブジェ
いずれも安定した需要があり、特に版画作品はコレクター層が厚い分野です。
オークションでの評価(原画・ユニーク作品)
「かぼちゃ」モチーフの原画やユニーク作品が主要オークションに出品されると、数百万円〜数億円単位で落札されるケースがあります。
版画やシルクスクリーンの「かぼちゃ」作品は、原画と比べると流通量が多いため一般的な落札価格は低めになりますが、それでも一定の人気が続いています。
日本のオークションやネット取引を見ると、証明書付きのシリアル入り版画でも数百万円〜1,000万円程度の落札例が多数確認できます。
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なぜ草間彌生の「かぼちゃ」は高額になるのか
理由は明確です。
- 草間作品の中で最も視認性が高い
- 海外市場でも理解されやすいモチーフ
- ブランド化されたビジュアル
「草間彌生=水玉=かぼちゃ」という図式は、今や世界的に定着しています。
世界中で大型展覧会が開かれ、国際オークションでの取引も活発なため、海外需要も高まり続けています。
日本国内での買取相場
買取価格とは、販売価格から諸経費を差し引いた金額であり、一般的に買取価格は販売価格の6〜8割前後になることが多いです。
しかし、草間彌生の「かぼちゃ」に関しては過去に購入している場合、現在のほうが価値が上がっている可能性が高いです。特に2000年代前半〜2010年代前半に購入された作品は、市場拡大の恩恵を受けているケースが少なくありません。
草間彌生「かぼちゃ」の買取相場(記事公開時点)
| 種類 | 相場 |
|---|---|
| 原画(アクリル) | 数千万円~1億円以上 |
| 原画(パステル) | 数百万円~2,000万円前後 |
| オブジェ(彫刻) | 数十万円~1,000万円 |
| 版画 | 300万円~1,000万円前後 |
※制作年・サイズ・状態・証明書の有無により大きく変動します。
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まとめ:草間藝術の「到達点」としてのかぼちゃ
網目が盾となり、
花が幻覚の象徴となり、
突起物が鎧となった。
そして最後に残ったのが、すべてを包み込む「かぼちゃ」。
瀬戸内の海辺でも、都会の美術館でも、私たちがあの黄色い南瓜に出会ったとき、言葉にできない感情が込み上げます。
それは、壮絶な闘いの果てにたどり着いた草間彌生の「人間賛歌」が、あの丸いフォルムに宿っているからなのかもしれません。
「あなたの作品はいくらになる?」
同じ「かぼちゃ」でも、制作年や保存状態で数百万円単位の差が出ることがあります。
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